こんにちは、「イトフェッショナル」ライターの山部です!
今回お邪魔するのは、2022年4月、糸島半島の付け根部分にオープンした「マガリ舎」というユニークなシェアハウスです(※住所は福岡県西区)。住めば住むほど家賃が上がる、一芸があれば家賃割引、大家さんの赤ちゃんも同居…などなど、面白い試みが盛りだくさんの革新的シェアハウス。
大家さんは28歳の若さで糸島で引っ張りだこの人気大工、「ふみふみ」こと吉岡史世さん。「みんなの」「Run Time Itoshima」など、前原を中心に糸島の建物を多く手がけ、呼ばれれば全国どこでも出張、デザインから施工まで一人で仕上げる「旅する大工」。ふみふみさんなしでは糸島の町は回らないといわれているほどです。
糸島に移住してきて、若者がいないことに危機感を持ったふみふみさん。「20~30代の若者をもっと糸島に呼びたい」という思いでシェアハウスを始めたそうです。なぜシェアハウスをやろうと思うに至ったのか、それまでの道のりなど、ふみふみさんの人生を深堀りしてきました!
吉岡 史世
1994年埼玉県生まれ。2012年に中央工学校木造建築科に入学するため東京へ。2014年に卒業し、2019年まで埼玉の工務店に勤務。退職後、「いとしまシェアハウス」の「大工インレジデンス」制度を利用して糸島に移住し、「旅する大工」として糸島を中心に活動。2022年4月、自分で改装した自宅をシェアハウス「マガリ舎」としてオープンさせる。
さて、今日は「マガリ舎」の取材当日!
教えてもらった住所に着くと、
何やらオシャレなバス停(?)が…!!
ふみふみさん「こんにちは」
猫とともにふみふみさんが登場!
山部「今日はよろしくお願いします!この標識は一体?」
ふみふみさん「実際にバス停で使われてた標識を、『捨てるならちょうだい』ってもらって作りました」
山部「本物なんですね…!インタビューの前に、まずは中を見学させてください!」
山部「おじゃましまーす」
玄関に入って、廊下を歩いていくと…
広々としたリビングに到着!木をたくさん使った内装がとってもおしゃれ。
山部「これ全部一人で作ったんですか?」
ふみふみさん「そうですね。5か月かけて仕事の合間にコツコツと」
山部「一人でこれだけ作れるとか、さすが大工さんですね…!左手に見えるアレは…」
ふみふみさん「薪ストーブです。黒い柵も手作りで、機械を買ってきて自分で溶接したんですよ」
山部「溶接もできるんですか!?」
山部「ここは…?」
ふみふみさん「キッズスペースです。うちには赤ちゃんもいるので」
山部「超楽しそう!滑り台がある!!」
中央の小さい扉を開けると…
中には子ども用キッチンが!!
山部「こんな豪華なおままごとセット、私が子どもだったらテンション爆上がりですね…」
山部「おしゃれな本棚!!本けっこう読まれるんですか?」
ふみふみさん「僕、文字があんま読めないので置いてるだけですね」
山部「感覚派なんですね…!!」
本棚前の階段を上がり、2階へ!
吹き抜けになっていて、見下ろすと開放感抜群です!
ふみふみさん「ここは1週間とか1か月とか、短期滞在者用のゲストルームです」
山部「色んなプランがあるんですね~」
一通り見せてもらったところで、早速インタビューへ!
人見知りの自分を変えたくて無人島へ
――まず、ふみふみさんの来歴を教えてもらってもいいですか?
生まれてから高校まではずっと埼玉で、それから東京の建築の専門学校に入って、卒業して、20歳で埼玉の工務店に就職しました。25歳ぐらいまでその工務店で働いてたんですけど、ある日つまんなくちゃって。ずっと既存の社会のレールに沿って走ってきて、ふと「ずっとこのままいくのかな、人生つまんないな」って、とりあえず仕事辞めて。その先何するか決めてなかったんですけど、たまたま「いとしまシェアハウス(※1)」で「大工インレジデンス(※2)」を募集してるのをTwitterで見て、「とりあえずすることないからそこ行こうかな」って糸島に移住しました。
(※1 糸島にある、食べ物やエネルギーを自給自足することがコンセプトのシェアハウス)
(※2 大工技術がある人がシェアハウスを改修する代わりに、家賃と食費がタダになる制度)
――もともと地方移住に興味があったんですか?
そうですね。埼玉ってめっちゃ田舎ってわけでも、都会ってわけでもない、山があるわけでも海もあるわけでもない、一番中途半端な町で。それならもっと、海とか山があるとこに住みたいなって。前からいとしまシェアハウスは知ってたんですけど、スキルも必要だし、ハードル高めなイメージで。そこに「大工募集」って見て、ちょうどいいやと。
――集団生活とかは今までもしてたんですか?
いや、初めてでした。
――実際どうでした?
普通にできましたね。シェアハウスって人といたいときはいればいいし、一人になりたくなったらどっか行ったりすればいい。一人暮らしだとずっと一人で、誰かに会いたくても気軽に会えない。その点、シェアハウスだとどっちでも選べるからいいなと思って。
――移住してくる前って、福岡に知り合いはいたんですか?
天神あたりにはいましたね。工務店時代に高知のお祭り運営ボランティアに参加したり、無人島ツアーに参加したことがあって、それで全国に友達ができて。
――え!?めっちゃアクティブですね!!
僕はすごい人見知りで、だからこそですかね。むしろそういう環境に追い込むというか。でも、意外と無人島でもそんなしゃべらなくて、結局、後日開かれる飲み会に何回か行って仲良くなるみたいな…。
――めちゃくちゃアクティブな人見知りですね…
昔から人見知りで、それを克服したいってずっと思っていて。中学ぐらいから人見知りを気にしてて、あえて高校は誰も知らないところに行ってみたり。でも結局そこでもあんまり友達できずで。何か変わるかなと、会社員のときにある日ヒッチハイクしてみたら、思ったよりうまくいって。でも、乗せてくれた人とその後、連絡取ってるわけでもなく。結局、人見知りっていう根本的なところが全然治んなくて、これはもう諦めていいと思って、人見知りの自分を受け入れるようになった。
――人見知りだけどシェアハウスに入るっていうのが面白いですよね。
それもやっぱり克服したいっていうのがあったからかな。仲良くなれば全然話すんですけど、そこまでいくのに時間がかかる。
――シェアハウスのほうが長くいれるから、人見知りとか関係なく仲良くなれるみたいな。
そうですね。一緒にいる時間が長いほうが仲良くなりやすいです。
――集団生活のストレスとかは全然感じないタイプですか?
全然。基本的に楽観的で深く考えない。そもそもあんまり他人に興味がないっていう(笑) ただ、あまりにも自然派な人とかとずっと一緒にいると疲れるかも、っていうのはありますね。個人的には食べたいもの食べて死ぬならそれでいい、嫌いなもん食べて長生きするぐらいなら、やりたいことやって早く死んだほうがいい。別に今死んでもいいっていう気持ちだから。
ホームレスになる気持ちで会社を辞めた
――昔からずっとそういう価値感なんですか?
会社辞めてから考えが変わった気がします。辞める前まではずっとぼけーっとしてて、何も考えてなかった。
――辞めてからそういう、今を生きよう的な感じになったんですね。辞めるときって、不安はなかったですか?
むしろ1回どん底に落ちたいなと思って、ホームレスになるような気持ちで辞めたんです。マイナスに考えておけば多少嫌なことがあってもマイナスになることがないから、大概のことがプラスになって生きやすいなって。
――わかります!私も会社辞めるとき「のたれ死んでもいい」ぐらいに思ってたから、そしたらもう絶対、そこより下にいくことはないから常に幸せみたいな。
そういうことっすね。
――めっちゃ同じ考えですね(笑)
裕福を知ってる人より、どん底を知ってる人のほうが幸せだろうなって思って。裕福な人はそれを維持しないと裕福じゃない、ちょっとグレード下がったらもうストレスとかになったり、絶対生きづらいだろうなっていうのもある。
――実際、糸島で仕事がなくて困ったりとかはなかったですか?
それが、糸島では自分から営業はほとんどせず、全部紹介で仕事がきてやっていけてますね。もともと発信力さえあれば何をしてでも食べていけると思っていて、Twitterに大工仕事の写真とか載せて発信してたら、ダイレクトメールで仕事がきたり。今は手が足りなくて仕事を受けられないので、あんまり発信してないんですけど。
――「旅する大工」っていうのは、いつから名乗り始めたんですか?
シェアハウス出てからですね。シェアハウスの改装しかしてなかったから、貯金がだんだんなくなってきて。そろそろ働かないとって、最初に紹介してもらったのが下田さん(※糸島在住のCGディレクター)。
――最初にだいぶ強烈な人紹介されましたね(笑)
シェアハウス出て一番最初の仕事が、下田さんが前原でやってるシェアハウス「RunTime」。そこからどんどん色んな人と知り合って、仕事をもらってる感じ。それ以外はTwitter経由の仕事で、大阪とか名古屋にちょこちょこ仕事で行ったり。
――じゃあそういうのが「旅する大工」ってことなんですね。福岡に限らず依頼があったらどこでも行きますっていう。
実はそんな旅っていうほどじゃないけど、出張だけど(笑)
――他に糸島で手がけた物件って何ですか?
「みんなの」「糸島の顔がみえる本屋さん」「郷土文具の店 小富士」、全部じゃないけど「孫悟空」「吞美や ふぅ」「糸島よかとこラボ」、あとはスナックもちょこっとやったり。前原商店街中心ですね。
バンジージャンプを自作して落下
――糸島に来て、都会が恋しくなることはなかったですか?
そうですね、あんまり。いうて、そんなに福岡も埼玉も変わんない気がするすけどね。僕は洋服とか買うわけでも、ランチとか行くわけでもないから。ホームセンターがあればいいみたいな。
――ホームセンター好きなんですか?
好きだし、職業的にもやっぱりホームセンターが近くにあるっていうのは要ですね。ここもナフコとかイオンとかビバとかコメリとかもあるし、割と充実してる。
――都会とか田舎とかじゃなくて、ホームセンターが近いかっていう(笑) ふみふみさんが大工になりたいって思ったのって、いつ頃なんですか?
もともと小さいときから物作りが好きで、親にずっと「大人になったら大工になれば」って言われてて。親は普通のサラリーマンなんですけど、その流れで大工になったって感じですね。
――どういうふうに作るんですか?
ざっくりとしたイメージとか寸法をもらって、頭の中で考えながら作るっていう感じです。この家も全然図面とかなく、頭の中のイメージで作りました。
――それすごくないですか?工務店時代もそうだったんですか?
工務店時代は設計士さんが書いた図面を見て指示通りにリフォームする、普通の大工でした(笑) 自分一人でやるようになって、一人のほうが楽だなって思いましたね。
――一人でやるの向いてるんですね。
自分のペースでできるから楽ですね。朝とか夜とか好きなタイミングで初めて、好きなタイミングで終われて。何かあんま仕事っていう感覚はないっすね。「散歩行くか」みたいな感じ。それぐらい気楽にやってるっす。
――今までで一番楽しかった仕事はどれですか?
下田さんのオフィスが一番楽しかったっす。完全に自由にやらせてくれたんで。
――下田さんのオフィス、「イトフェッショナル」でも取材で行ったんですけど、めっちゃよかったです。ボルダリングできる壁とかスキップフロアとか、すごい遊び心があって。
ほんとは滑り台とかジップライン(※架け渡されたワイヤーロープを滑車で滑り降りる遊び)みたいなのも作りたかったすけどね。
――超楽しいですね、アスレチックみたいな。
前にも、プライベートでバンジージャンプ作ったりして。
――バンジージャンプ!?
「バンジージャンプしたい、作ろう」って思ったら、やらずにいられなくなっちゃって。知り合いの倉庫でゴムを何重にも重ねて作ったんですけど、ロ-プが長すぎて、ただただゴムがピヨーンって引っ張って戻らず、下に落っこちただけ。
――大丈夫でした!?
下にマット引いといたんで(笑)
――よかった、マットあって(笑) バンジージャンプにしろ、下田さんのオフィスにしろ、めちゃくちゃクリエィティブですよね。
人と同じものは作りたくないっていうのがあって。変わった物を作りたい、同じ物はあんまり作りたくない。たとえば家具とか作るにしても、大量生産はしたくないですね。それがめっちゃ売れるってなっても、あんまモチベーションが上がんないです。たぶん商売的には向いてないですよね(笑)
住人に仕事をあげられるシェアハウスにしたい
――「マガリ舎」をやろうと思ったのは、ここに住み始めてからですか?
そうですね。このエリアは主に30~40代の夫婦が多くて、20代から30代前半の独身の人が少ないんです。シェアハウスをつくれば、同世代の20代、30代にもっと糸島近郊に住んでもらう窓口になるかなと思って。
――窓口というと、けっこう住人の移り変わりは早いイメージですか?
そうですね。ずっとここに住むというより、ここに移住してくるきっかけの場所、お試しみたいな感じで。おいおいは近くで家とか借りて住んでもらいたいなって。
――なるほど。最初の間口を下げて来やすくして、コミュニティーや仕事を見つけて、独り立ちしてもらうってことですね。さっき、短期滞在用の部屋もありましたね。
とりあえず気軽に来やすい形を作っていこうかなと。同じ人がずっと住んでるというよりは、どんどん新しい人に入ってもらいたくて、ここも1年で家賃が5000円上がるようにしてるんです。それでも住みたい人は住んでもいいけど、できるだけ循環したいと思って。
――住んでたら家賃がどんどん上がってくシステム、新しいですね(笑) ゆくゆくはシェアハウス住人に仕事を振りたいんですよね?
はい。今はフリーランスとかノマドワーカーみたいな自分で仕事を持っている人向けなんですけど、今後はそういう職じゃない人にも地域や知り合いの仕事を紹介して、住人が生計を立てられる形にまで持っていきたいと思っています。
――若者があまり糸島に住まないのは、やっぱり仕事がないからなんですかね?
福岡市内の会社で働いてる人とかだと、やっぱり住むのもそっちのほうがいいのかなって。家賃も1万円ぐらいしか変わらないし、わざわざ住む必要がない。遊ぶときだけ糸島行けばいいみたいな感じだと思うんです。
――糸島に仕事があれば、それも変わるかなってことですか?
そうですね。糸島、本当めっちゃいいとこなのになって思うんです。特にここなんか、ちょっと行ったら山なのにスーパーも近いし、田舎と都会のいいとこどりですよ。地方に仕事と家さえあれば移住したいって若者、結構いると思うんですよね。シェアハウスってお金もそんなにかからないし、知り合いがいなくてもそこからつながりを作っていけばいい。一から開拓するわけじゃないぶん、ちょっとハードルが下がるかなと思うんです。
――「マガリ舎」には、ふみふみさんの大工仕事を手伝ったら家賃が安くなる制度もあるんですよね?
はい。単純にやっぱり、大工仲間もほしいなっていうのがあって。何なら、自分の大工仕事を他の人に振って、自分はもっと他のこともできたらなと。
――それができたらウィンウィンですね!実際、今住んでる方は何をされてるんですか?
今住んでいる人の一人はニートをしてます。もともと神奈川で仕事してて、新卒で入って半年で辞めて、糸島に移住してきたそうです。
――半年!決断が早い。
たまに仕事を手伝ってもらったりしてますね。
――何か一芸があったら割引みたいなのもあるんですよね?
そうです。掃除しますとか、料理やりますとか、家事しますとか、何でもいいんですけど。僕は料理を作るのが嫌いで、毎晩一日一食だけ作ってくれる人がいたら家賃タダでいい(笑)
――それすごいですね(笑)
自分ができないことをやってくれる人がいたら、家賃を割り引いていくシステムです(笑)
――めっちゃいいですね、そのシステム(笑) 他にもやりたいことってあるんですか?
この家も2階からめちゃくちゃ長い竹で流しそうめんをぐるっと巡らせたいなとか、庭のウッドデッキももっと拡張したり、下はガレージにしたいなと。ジェットコースターとかも作ってみたいし。
――子ども超喜びそう!いいですね、何でも自分で作れるって。最後に、今後はこういう仕事をしていきたいとかってありますか?
今、請負で大工をしてるっていう感じだから、おいおいは木工家具とか小物とかを作るクリエイター側になりたいです。細かい仕事のほうが楽しいし、アート寄りな思考なので、自分だけの物を作っていきたいですね。
――それ、すごく合ってそうですね!!マガリ舎もクリエイターのお仕事も応援してます!今日はありがとうございました!!
編集後記
ふみふみさんインタビュー、いかがでしたか?
ふみふみさんは若いのに達観しているというか、我欲や「人にこう見られたい」というのが全然なくて、仙人のようでした。
こんなにいろんなことを精力的にやっているのに、考え方は全くガツガツしていなくて自然体で、その感じが聞いていてとても心地よかったし、だからこそうまくいっているのかなと思います。
ちなみに、その後ウッドデッキ拡張は完成したそうで、写真をいただきました^^
そしてなんと、シェアハウスは短期住人部屋を除き、現在満室だそうです!
短期で住んでみたい方、空きを待ちたい方はぜひ「マガリ舎」まで問い合わせてみてください。
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに♪
写真:川岸勇介
文:山部沙織