そだてる

「日本をどうにかしたい!」カフェ×本屋×寺子屋の九大生店長が語り合う日本の変え方(前編)

こんにちは、「イトフェッショナル」ライターの山部です!

九州大学が糸島半島に完全移転してきて、約5年。「九大生がやってきたことで、果たして糸島にどんな化学反応が起きているのか?」というルポの第2弾です!(第1弾はこちらhttps://itofessional.com/2022/03/21/talk-8/

1年前の第1弾記事では、「九大が移転したばかりで学生街がなく、コロナ禍もあり、九大生は家にこもりがちで地域との触れ合いは少なくなっている」という実態が明らかになりました。

そんななか、学生をしながら地域で塾を起こしたり、本屋をつくったり、カフェの店長をやったりと、面白い活動をしている九大生たちを発見しました!

彼らは「熱風寮」という、九大OBの大堂さんが糸島を中心に展開する「地域に開かれた学生寮」に住む3人。「やってみてぶつかった壁は?」「将来何を目指してるの?」などなど、赤裸々に語ってもらっているうちに、話題は熱い日本の未来の話に…!
「これからの日本をよくしていくには?」を考え続ける若者たちの熱い想い、ぜひご一読ください!

西俊紀

2022年4月、九大近くのカフェ「mulberry coffee(マルベリーコーヒー)」の店長に就任。長崎県出身。法学部4年生。熱風寮「前原西」在住。今年4月から1年間の休学中。 

中田健太郎

2022年3月、筑前前原に本屋「All Books Considered」をオープン。宮崎県出身。共創学部3年生。熱風寮「篠原」在住。

川岸勇介

2021年4月、師吉に寺子屋「夢が見つかる学校 もろきち」をオープン。福井県出身。工学部材料工学科4年生。熱風寮「師吉」在住。今年4月から1年間の休学中。

「やりたいことがない」と悩むのは、教育のせい

――まずは、今自分がやっている活動について教えてください。

西:「mulberry coffee」という、九大近くのカフェの店長をやっています。mulberry coffeeは僕の住んでいる「熱風寮」を運営している大堂さんが「地域と学生の憩いの場をつくろう」と始めたカフェで、店員はみんな九大生です。今オープンから4年半で、最初の3年半は今、筑前前原で「SAZANAMi」というカフェをやっている浦川さんが店長をされてました。僕が浦川さんの下で半年ぐらい修行して、浦川さんが自分のお店を持つことをきっかけに店長を引き継いだ形です。

mulberry coffeeでラテアートをつくる西くん

中田:筑前前原で「All Books Considered」、略して「ABC」という、四畳半の小さな本屋をやっています。今月でオープンして1年3か月です。高校生のときに地元の宮崎で「ポロポロ書店」っていう小さな古本屋に出会って、店主さんの生き方と本のセレクトが一致していることに衝撃を受けて。飄々とした店主さんで、集めてる本も飄々としてるんです。僕もそんなふうに「自分っぽい本屋」を作りたいなと思って、ABCを始めました。 

「All Books Considered」で談笑する中田くん

川岸:熱風寮「師吉」で、小中学生10人ぐらいを対象に「もろきち」っていう塾を2年やっています。コンセプトは、「夢が見つかる学校」。みんな大学3年生になったら、就活で「やりたいことや好きなことがない」って悩むじゃないですか。無理やり好きになると辛くなるので、自然に見つかっていくべきなんだけど、なかなか見つけられる人が少ない。それは、小中高っていう教育の中で、何かを好きになるきっかけが乏しいっていう現状があるんじゃないかと思って、「だったら、体験を主体とした塾を作りましょう」っていう感じでやってます。

「もろきち」で静電気の授業をする川岸くん

――活動を始めたきっかけは何だったの?

西:今から1年9か月ぐらい前に、僕が寮で趣味のコーヒーを淹れようと、豆をドリップしてたんです。そしたら大堂さんがやって来て、「俊くん…もしかして、コーヒー好きなの?」って(笑)。

――もしかしてって面白いな(笑)

西:「めっちゃ好きです」って言ったら「俊くん、mulberry coffeeで働かない?」って言われて、「ありがたいです」ってお受けして。

――それまでは浦川さんが全部1人でやってたの?

 西:そうです。しかも、以前大堂さんが新しく学生を雇いたいって提案したときに「1人で大丈夫です」って断ってたそうなんです。僕が「働くことになりました」ってマルベリー(※mulberry coffeeの通称)に挨拶しに行ったら、浦川さん、「聞いてないんだけど」って。大堂さんが事前に言い忘れてたらしく、本当に最初はピリピリしてて(笑)

川岸:やばすぎる(笑)

――ドラマの始まりみたい(笑)

西:でも、次第に浦川さんがすごく優しい人だって気付いたし、何しろ教え方がすごく上手なんです。それで、半年ちょっとぐらい、じっくりマンツーマンで週に1回から2回ぐらい教わって、コーヒーの基礎をたたき込んでもらった。

――週2で半年、教えてもらうってすごいね。その後、西くんが店長を引き継ぐことになったのはどういう経緯だったの?

西:これも大堂さんに「やってみない?」って依頼されたんです(笑) でも、もともと自分でカフェをやることは「人生の中でやりたいことリスト100」の中に入ってて。

――やりたいことリスト100があるんだね…!

西:僕が高校時代に好きだった地元・長崎のコーヒー屋さんがあって、「ゴルゴ13」みたいな渋いおじちゃんが黙々とドリップしながら「君さ、付き合った後によく女の子に振られるでしょう?」とか、まだ信頼関係も何もない状態でつっけんどんに言われるんです(笑) でもそれを許してしまうような魅力や空気感があって、それがめっちゃいいなと思って、本当に何回も通い詰めてて。

――中田くんの原体験と通ずるものがあるね!

西:そうですね。あともうひとつの理由が、ちょうどマルベリーで働く直前までインターンをやっていて、自分でイベントや法人営業をやったりしていたので、そこで培った経験を今度は別の場所で生かしてみたくて。

新刊を仕入れるため、自力で出版社と交渉

――なるほど。中田くんは本屋やろうっていうのは、いつ頃から考えてた?

中田:一昨年の9月に前原に「糸島の顔がみえる本屋さん」(※100棚ある本棚の1棚ごとにそれぞれオーナーがいて蔵書を売る本屋)がオープンしたじゃないですか。「これなら手軽にできるな」って、割と早い段階で僕も棚のオーナーになったんです。ただ、自分の蔵書を売るって言ったって、この前高校卒業したばっかりのやつがそんなに本を持ってるわけない。

――そもそも商品がそんなにないんだ(笑)

中田:棚の中で一番売れたんですけど、売れば売るほど自分のコレクションが減っていっちゃう(笑) なので、次は自分で新品の本を買って売り始めたんです。「いとかお(※「糸島の顔がみえる本屋さん」の略)」は基本的に古本屋なので、僕も値下げして売ってたんですが、定価で買って値下げして売ると絶対赤字じゃないですか。趣味っていう部分を差し引いても辛くなってきて。

――それは辛くなりそう。

中田:それで、10月か11月頃になんとか卸してくれる出版社さんを見つけて、今思えばご厚意で、「何の儲けにもならなかっただろうな」みたいな小ロットで仕入れて売ってたんです。そしたら12月ぐらいに「いとかお」の2階スペースの改造が終わって、「誰か使いたい人いませんか」って連絡が流れてきて。「やりたい」って名乗り出て、DIYで3か月ぐらいかけてお店をつくって、翌年3月にオープンしました。

――川岸君は、「もろきち」を始めたきっかけは?

川岸:大学1年生の終わりに熱風寮「師吉」に入って、寮生の豪介っていう子と2人で「ここで何かやりたい」って考えて。「九大生だから勉強はしてきたし、教えられる」ってことで、毎週日曜日に勉強を教え始めました。大堂さんもすぐ「いいね」って言ってくれて、やるって決めた翌日にはもう豪介と2人でビラを配りに行って。

――すごい行動力(笑)

川岸:僕、中学生のときは生徒会にめちゃくちゃのめり込んでて、活動的だったんです。けど、高校は周りが優秀でくすぶってて、大学1年生でもコロナで何もできなかったから、フラストレーションが蓄積されてて。それが一気に爆発したんだと思います。

――何で塾だったの?

川岸:たぶん、教育に関心があったのかな。中学生のときに、「将来自分に子どもができたら、どういう勉強をさせるか」みたいなことめっちゃ考えてて。

――今は授業内容、普通の塾と全然違うよね?

川岸:そうですね。勉強だけだと普通の塾とか学校とかぶるし、違うほうがいいんじゃないかとだんだん思うようになって。生徒さんと親御さんと相談して形を模索しつつ、料理が好きな九大生を呼んで出汁づくりの授業をしてもらったり、環境系のサークルに入ってる九大生にコンポスト作りの授業をしてもらったり。この「夢が見つかる学校」っていうコンセプトがしっかり決まったのは、ちょうど1年前ぐらいです。

――さっき「やりたいことがわからない人が多い」って言ってたけど、自分も悩んだことがあったからそのコンセプトになったの?

川岸:僕じゃないんですけど、僕の部活の先輩が就活で「やりたいことない」みたいなことを言って悩んでて、それを聞いてちょっとイライラしてたんです。僕は怒りが原動力になるので。 

――なるほど、それでそのコンセプトにたどりついて。

川岸:最近休学して、もっと「もろきち」に力を入れようと思って、1年間のカリキュラムをしっかり決めたんです。村上龍の『13歳のハローワーク』っていう、職業が科学、ものづくり、食、自然、ファッション、ビューティーとか、12項目プラスその他に分類されて紹介されてる本があるじゃないですか。それを1か月に1項目体験して、1年間で網羅できるようにする予定です。

――すごいね!どういう内容の授業になるの?

川岸:この前はスチレンボードっていう建築学生がよく使う発砲板で、家みたいなものを作りました。他に予定してるのは、服のリメイクとか。より幅広く、偏りがないカリキュラムにしていこうかなと。 

メディアから取材殺到。だけど2割しか伝わらない

――じゃあ次の質問なんだけど、実際お店や塾をやってみて、反響はどうだった? 大堂さんは「西くんが店長になってから学生のお客さんがすごい増えた」って言ってたけど。

西:僕は1人のバリスタとして見てもらいたいので、お店で自分が九大生ということはあんまり言ってないんです。だからそういう意味では、あまり変わらないのかな。確かに客数は増えたんですけど、コロナが明けて単純に人の流れが多くなったとか、いろいろ要因はあるんですよね。

――冷静な分析だな(笑)

西:お客さんがmulberry coffeeを選んでくれて、今日まで何とかお店が続いてきているっていうことが、1つの反響ではないですけど、成果かと思っています。

――中田くんはどう?「ABC」がオープンしたとき、メディアでいっぱい取り上げられてたよね。

中田:新聞、テレビ、ラジオ、雑誌はひととおり取材受けましたね。でも、それでお客さんが増えたかというと、全然そんなことない。

――そういう取材を見て来る人がけっこういるのかなと思ったけど。

中田:いるにはいますけど、それでめちゃくちゃ増えたかっていうとそんなことはなくて、それはちょっとした不満というか、怒りというか。テレビは言いたいことの2割ぐらいしか放送されないんですよね。あと、テレビとかの、取材する人の態度が気に入らない。

――学生だと思って上からきてるみたいな?

中田:そう、なめてるんです。それで、自分が学生であることに対して、負い目を感じる場面がめちゃくちゃ多いんです。だから、反面教師ですよね。自分もいろんな人の話を聞くのが好きなので、今後、紙の媒体で雑誌作ったりしてみたくて、聞かれてる人が心地よい取材の仕方をしないといけないなって思いました。

――なるほどね。川岸くんは「もろきち」、反響どうだった?

川岸:僕は月6000円でやっているので、継続的に1年間とか2年間通ってくれる子がいるのが、素晴らしく嬉しいんです。認めていただいている証拠だと思ってる。もう96回、したのかな。

――96回!すごいね、積み重ねたじゃない。

西:まじですごい。

――親御さんからもすごい信頼されてるってことだ。

川岸:そうですね。最近、親御さんたちに「もろきち、これからどうするんですか?」っていうのをよく聞かれるんです。「学生の卒業や入れ替わりがあっても、もろきちはぜひ残してほしい」みたいな声をよくいただくようになりました。

「どんなお客さん来るのかな」出勤前にわくわく

――じゃあ次の質問なんだけど、お店や塾をやってて何が一番楽しいですか? 

西:主に2つあって、1つは常連さんがちょっとずつついてきてくれたこと。

――けっこうお客さんの顔を覚えてるの?

西:なるべく覚えるようにはしています。ただ、この前「1年半前に初めて来て、今日2回目です」ってお客さんが来て、さすがに覚えてなかった(笑) でも、その人と話した内容はちょっと思い出したので、「昔、ここに座ってこういう話しましたよね」って話して、その話の続きを聞いて。

――よく覚えてるね!

西:話が盛り上がった人の名前はなるべく聞くようにしていて。継続して来てくれる人とおしゃべりするのがめっちゃ楽しみでモチベーションになるし、いつもお店に立つ前に「今日はどんなお客さんが来てくれるのかな」って絶対考えるんです。

一同:へー!!!

――イメージトレーニングするわけ?

西:そうです。「あの人最近来てないけど、元気にしてるかな」とか。

――すごい。

西:2つめは、さっき「インターンの経験を応用したい」って言ったみたいに、インプットしたものをお店でアウトプットできること。最近も、ちょっと恥ずかしいんですけど、『できる店長はここが違う』みたいな本を買って。

――できる店長になりたいんだ(笑) 

西:もう一冊が、『店長の鉄則55条』。

――けっこう多いな(笑)

西:もうちょっと前に買っとけばよかったと思いますけど(笑) でも、そういう感じで自分のインプットしたものを実践するのが楽しいですね。今は、店舗入り口の改善をしようとしてて。カフェにとって入り口の入りやすさってめっちゃ重要らしくて、心理的ハードルを下げるために観葉植物を置こうかなとか。

――なるほど。

西:僕は前からカフェ巡りが趣味なんですけど、今は単なる趣味じゃなくマルベリーに活かせるからめちゃくちゃ勉強になるし、意味を感じられて楽しいんです。「ここは内装の世界観が統一されてて素晴らしいな」とか、逆に「ここ、客を待たせ過ぎじゃないの」とか。それが翻ってマルベリーで「提供は15分以内にしましょう」っていうルールをつくったりっていうことに繋がるので。

――面白い。

<後編につづく>

https://itofessional.com/2023/06/09/talk-12/

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA