そだてる

「日本をどうにかしたい!」カフェ×本屋×寺子屋の九大生店長が語り合う日本の変え方(後編)

九大生店長座談会、後編をお送りします!
前編はコチラhttps://itofessional.com/2023/06/08/talk-11/

お店の肩書きが自己表現に

――じゃあ、中田くんは本屋をやってて何が楽しい? 

中田:物を売るって仕事は、「自分が物を選んで買う」「それを人に買ってもらう」っていう2つの要素があるじゃないですか。僕、この2つともすごく好きなんです。そもそも物を集めるのが好きで、趣味はリサイクルショップ巡り。あと、小中高とか大学生ぐらいで来たお客さんが本を買ってくれると、「この本読んでどういう変化があるのかな」って考えることにやりがいを感じる。僕が置くのは基本的には、すごい悩みが増える本なんです。自分がお客さんの人生の攪乱材料になっていると思うと、「やっててよかったな」って。

――視点を増やすみたいなこと? 問題提起みたいな。

中田:そんな感じです。あと、メンバーにすごく恵まれていたなって。メンバー4人のうち2人はABCを始めるときに知り合って、その2人が案外、めちゃくちゃポテンシャルすごくて、そのおかげでやれてるみたいなとこがあって。自分がすごい怠惰で時間にルーズなんで、ケツたたいてくれる人たちに出会えたことが嬉しいですね。

――なるほど。川岸くんはやってて楽しいことは?

川岸:僕はまず、「もろきち」は今のところ義務感が半分で、半分がやりがいなんです。定期的に来てもらう仕事なので絶対辞めちゃいけないし、義務感のほうが大事。だけど、何で続けられてるかっていうと、子どもは変なことするから面白いし、授業は始まったら楽しい。あとは、メンバーが持ち回りで企画を作って授業をするんですけど、裏テーマがうまくいくと嬉しい。 

――裏テーマっていうのは? 

川岸:毎回授業ごとに、子どもに悟られないように裏テーマを隠し持ってるんです。たとえば、僕はデザインが趣味なので、前に「家紋を作ろう」みたいな授業をやって。裏テーマは家紋とロゴが近いってことだったり、ロゴやデザインに興味持ってもらおうみたいなので、それが達成できたかなって。

――面白い。

川岸:あとは、自由に何でもできるのが楽しい。「もろきち」は小規模だから、めちゃくちゃ楽なんです。今、3人でやってるんですけど、意思決定者はほぼ僕1人なので。

――1人(笑) みんな、ついてきてくれる感じなの?

川岸:そうですね。普通なら会議が持ち上がるようなお金がかかる提案でも、「挑戦としてやりたいです」って言ったら、「必要だよね、OK」って。

――うまく嚙み合ってるんだね。

川岸:あと、「もろきち」を始めてから僕の興味とか生活も変わっていって、なんか幸福度めっちゃ上がったなと。それまでは部活と勉強しかなかったんですけど、デザイナーに憧れたり、本をしっかり読むようになったり、僕の肩書きに「もろきち」っていうのが加わって、こういうのにも呼ばれるようになったり。それも嬉しいことの1つです。

――世界が広がった感じなんだ。

川岸:そうですね。

中田:僕もずっとそれは思ってて。基本的に僕は普段喋らないので、肩書きがあると楽ですよね。ある程度、お店が自分を表現するものとして機能するんです。 しゃべらないけどわかってほしいっていう、すごい不器用な生き物(笑)

一同:はははは(笑)

――お店以外ではどうしてるの? 

中田:学校めっちゃ苦手で、大学とか全然いられないんです。授業が終わったらすぐ自分の学部棟から離れて、遠い所に(笑)

――そうなんだ(笑) 

西:僕も、外に出て行ったときにマルベリーの話をしたら、それだけである程度自分のブランディングができるんで、めちゃくちゃ楽っていうのはありますね。

全員が1度はぶつかる「お金の壁」

――みんなそこは共通してるんだね。じゃあ次の質問なんだけど、活動してて壁にぶつかったことはある?

西:一番大きいのは、お金の面ですね。マルベリーって九大生のアルバイトに時給で働いてもらってるんですが、お店の営業にプラスして裏で何かをやりたいと思ったときに、これ以上の人件費を払うのが難しい。結局、僕が自分でやってしまったり、自分のキャパがいっぱいでやれなかったり、そこはめちゃくちゃ大きい壁だなと思っています。

――やりたいのは、どういうことなの?

西:店内を改装したり、インスタにもっと力を入れたり、新メニューももっと開発していきたいです。ただ、たとえば改装だと、テーブルとかの物自体を買うのにプラスして、それを取り付けるとか、作業自体に人件費がかかっちゃう。そうなると出費が大きくてできないとかがけっこうあって。

――なるほど。中田くんは壁とか感じてる?

中田:僕もほとんど同じです。別に商機があってABCを始めたわけじゃないんで、経営的な問題に直面しますよね。今、お店の人件費は出てないですし。オープンしてからずっと悩んでるのは、「本当に前原でいいのか」。僕の中の前原でのロールモデルは、「ここのき」さん(※前原の雑貨店)と「SPACE SPICE」(※前原のスープカレー店)さんで。

――大分違う2店舗だね(笑)

中田:「ここのき」さんはもうここで十何年やってるじゃないですか、まじですごい。SPACE SPICEさんは北海道出身のラッパーの方がやってて、月末のライブイベントでDJをやると「絶対こういう人たち前原にいないだろう」っていうお客さんが急にわらわら湧いて出てくる。おかしいんですよ(笑)

――「前原で売り上げって立つんだろうか」っていうのと、「いやでも、あそこは立ってるし」みたいな葛藤?

中田:そうですね。結局、「前原でやりたい!!」と決めて始めたというより、ここに場所があったから始めたんで、それはずっと引っかかってる疑問です。

――川岸くんは、もろきちで壁はあった? 

川岸:一番最初にぶつかったのは、「もろきち」でお金を取るっていうこと自体ですね。最初は、授業1回500円でした。

西:コインランドリーじゃん(笑)

川岸:本とか食品だったら原価と売値はなんとなく決まってるけど、塾なんてピンキリじゃないですか。無形商材なので、お金の価値をつけるのはけっこう怖い。それは保護者さんと話して、最終的に月6000円に決まったんですけど。

――保護者の方と話して決まったって、すごいね。 

川岸:大堂さんに相談したら、「僕らがつくるよりは、関わってくれる人も一緒につくったほうがいいんじゃないか」みたいなことを言われて、納得して、保護者さんに協力してもらうことにして。

――すごいね!

川岸:あと別の壁として、最初は、科学的根拠がない体験主体の授業をやるのが、すごい不安だったんです。文科省にはすごい頭のいい人たちが作った指導要領があって、科学的根拠も歴史もある中で今の教育方針が決まってるけど、それが全くない中でやるから。6000円もいただいてて、「効果がない」とかなると。

――効果測るの、難しいもんね。

川岸:普通の塾だったら、「学力上がりました」とか「テストの成績がよくなりました」とかできるけど、そこが測りにくい。カリキュラムに関しては、Facebookの全国の学校の先生が入ってるグループがあって、そこに何度か相談させてもらって、「カリキュラムに科学的根拠は、別に要らないんじゃないか」みたいな結論になりました。「子どもに体験は必要だけど、僕たちには時間的にリソースがないので、ぜひやってほしい」みたいに言ってもらって。あとは、お金を生むのがけっこう難しくて、それは休学中の今の課題です。

――もっとお金も発生するようにしたいと。

川岸:今、授業料は教材とかに消えてくので、みんなボランティアでやってるんです。人件費を出すとしても、時給1000円は払えない。みんな、なくてもやっていけてるんですけど、ずっとそれじゃ嫌だとは思ってます。3年後とかに僕が就職なりでここを離れることになったら、他の誰かがやってほしいんですけど、それには最低限、お金は必要かなって思ってます。

日本をどうにかしたい

――今後、お店をどうしていきたいですか? 

西:マルベリーのソフト面をもっと追求していきたいなと思っています。さっき話した「ゴルゴ13」のおじさんの店みたいに、もっとお客さんとのコミュニケーションを大事にしていきたい。たとえば、知らない人に恩送りをする「コーヒーお手紙チケット」。ハガキを1枚600円で購入して、そこに何かメッセージを書いて、お店に置いておく。そうしたら、それを見た他のお客さんがそのハガキを取って、メッセージに対する返信を書いてレジに持っていくと、500円分の飲み物と交換できる。そのハガキを僕らが最初にハガキを買ったお客さんの家に送る、みたいな。

――お客さん同士の交流を促すんだね。

西:1つの事例ですが、そういうものをどんどん作っていって、マルベリーをもっと長く、みんなに愛されるお店にしていきたい。

――中田くんはお店をどうしていきたい?

中田:話を聞いてて思い出したのが、僕がポロポロ書店に通ってた理由は、「行ったら何かが起こる」みたいな期待を抱いてたんだろうなって。狭い店内に常連さんと初めて来た人がいたときに、ポロポロ書店だったら繋いでくれるんです。

――なるほど。

中田:僕は今、それをしていないなと思って。お客さん同士を繋ぐっていうのは、お客さんを醸成する上ですごい大事なことなのかなと思います。僕もゆくゆくはお店を大きくして、それで食えたら一番いいと思ってるんで、それをするために何が必要か、人はどうやったら本読むんだろうか、っていうのを今考えているところです。

――ありがとう。川岸くんは「もろきち」をどうしていきたい?

川岸:さっき話したカリキュラム、生徒たちにどういう効果が出るかがわかるのは5、6年後なんですけど、効果が出るように策を練っていきたい。最近始めたのは、振り返りシート。子どもたちが自分が好き、向いていると思ったことを自分で書いていくんですが、場合によっては、僕らが授業の12項目のデータからより定量的に適性を出して、将来の進路選択の助けになったらいいなって。

――大学を卒業したら、将来どうなっていきたいですか?

西:僕は、日本をどうにかしたいっていうのは、常々思っています。

――法学部生だな(笑)

西:政治家の方のお話を色々聞いて思うのは、どれだけ頭のいい人が合理的な施策を打ったとしても、既得権益や規制や法律によって頭打ちになってしまう。先日も、政治家の方が「今の俺の達成してるレベルでいくと、たぶんこの先、日本のことで何もできんのじゃないかな」って言ってたんです。その話を聞いて、僕は頭のよさを磨いていくんじゃなくて、もっと不確実なことを産んでいきたいなと。日本の社会にゆらぎやバグをどんどん生み出していけば、それがゆくゆくは今のルールや規制を変えていくんじゃないか。だから、生涯を通して、僕はそういうゆらぎやバグになりそうな人たちと出会っていきたいし、自分自身もそうなりたい。その一環として今、熱風寮「前原西」(※西くんが住んでいる寮)にバグだらけの人たちがいるじゃないですか(笑)

――はははは(笑)

西:それは人生を通しての目標で、マルベリーでもやりたいことです。もっと具体的な話でいうと、僕はその1つの手段として、自分で会社を作ってみたいと思っています。

――起業したいっていうこと?

西:そうです。事業を作って、ため込んだ資本でさらに大きなことをやっていきたい。たとえば、資本がいっぱいたまったら、ドカーンっと熱風寮にお金を渡して、「無料にするから、めっちゃいい学生をどんどん育ててください」と、お金にあまり執着することなく言いたい。目標としては、35歳ぐらいまでにある程度、自分の会社を大きくしておきたい。上場までも見据えたいなと思っています。

――めっちゃガチやん!

川岸:早くない?(笑)

西:でも、俺はそれぐらいのスケジュール感でいきたいなと思って。

中田:間に合わねえっていうことですよね。

西:そうね。やっぱり大きいのはマルベリーのオーナーの大堂さんが熱風寮を始められたのが30代前半だったのもあって、無意識にそのスケジュール感でやりたいと思ってるんだと。

――中田くんは卒業したら、どうなっていきたい?本屋で食べていきたいっていう話に付け加えるなら。

中田:自分は、西さんの言うバグ役ですよね。出版業界ってお堅くて気持ち悪いなと思ってるんですが、そこに陰口言ってないで、何かしらの形で強い影響を与えていきたいなっていうふうには思ってます。

――川岸くんは?

 川岸:僕はコンセプトとかサービスとか、企画を考えるのが好きなんです。昔ベネッセでチャレンジをやってて、月1回箱が届くのがめちゃくちゃ楽しみだったので、教育業界に行ってその箱の中身を作れたら楽しいだろうな、ってぼんやり思ったり。一方でデザイナーにも憧れはあって、デザイン事務所とか広告代理店も想像できるし。とにかく、何かを机の上で企画して、それを世に出すみたいなことはやりたいです。

――自分で起業して会社つくりたいとかはある? 

川岸:僕の性格的にたぶん、そっちなんです。豪介からも、「勇介(※川岸くん)は自分の城を持つとか、そういうのが好きそうだよね」って言われて、そのとおりだと思って。健太郎(※中田くん)の本屋も、すごい憧れる。わかんないけど、一定期間、大きい会社から専門的なデザイン事務所とかそういう所で経験積んだ後に独立して、何かする人になるかな。

――いいね!合ってそう。では質問は以上です。今日は3人とも、ありがとうございました!!

編集後記

九大生店長たちの座談会、いかがでしたか?

この企画を思いついたのは1年ちょっと前、中田くんのお店のオープン直後。挨拶に行ったら、たまたま「もろきち」の川岸くんと、マルベリー店長になったばかりの西くんが別々に入ってきて、「奇遇だね!!」と出くわしたことが発端でした。「なんかこの3人の並び、アツいな!!」と閃き、「学生のうちにこんな貴重な経験をしてる3人には、ぜひ語ってもらわないと!」と企画になった次第です。感想などありましたらぜひお聞かせください^^

それでは、お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに♪

写真:Chinamu Sashikata
文:山部沙織
ブログ制作:糸島よかとこラボ

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