今回の企画は、東京から福岡県糸島市に移住した3人による座談会です。
東京の大手企業でバリバリ働き高給をもらっていた3人が、なぜそれを捨てて糸島という田舎に移住することを選んだのか? 生き方の変化、価値観の変遷、「本当の幸せって何なのか?」、熱く語り合いました。
都会暮らしに違和感を覚えている人、地方移住を考えている人、「人生このままでいいのか?」とモヤモヤしている人へ、何かのヒントになれば幸いです。
東京暮らし: 11.5年 / 糸島暮らし: 6年
神奈川県出身。東京のIT企業で働いた後、糸島に移住。糸島の移住者と地域の人たちが月1で飲み会をする「いと会」や、野外映画祭「いとシネマ」、コミュニティスペース「みんなの」の発起人。現在は家族でピーナッツバター店「いとナッツ」を開店。「糸島よかとこラボ」の運営者。糸島の中では都会に住んでいる。
東京暮らし:7.5年 / 糸島暮らし: 4年
熊本県出身。九大を卒業し、東京の商社に就職後、糸島にPターン(※)。糸島の古民家を借りてリノベし、九大生のための寮にする合同会社・通称「九州熱風法人よかごつ」を設立。「地域に開かれた学生寮」を目指す。「糸島よかとこラボ」の運営者。糸島の中では都会に住んでいる。
※Pターン:大学や専門学校など、親元を離れて青春時代を過ごした地でその地域と関わり愛着が生まれ、その後東京や海外でキャリアを積んだ後、その地に舞い戻ること。軌道が”P”に似ていることからPターンと名付けた。
東京暮らし:4年/糸島暮らし:2年半
大阪府出身。東京の出版社に就職し、編集者として働いた後、2019年に糸島に移住。現在は「糸島よかとこラボ」のコミュニティマネージャー兼フリーライターとして活動中。この記事を書いた人。
東日本大震災の人災で、東京の住みにくさに気付いた
山部:今日は東京から糸島に移住した3人で、座談会をしたいと思います!まずは、何で糸島に移住しようと思ったんでしょう?東京には満足してなかったんでしょうか?
福島:きっかけは東日本大震災です。出身は神奈川なんですけど、元々自然豊かで食べ物がおいしいところで子育てしたかったんです。震災で帰宅難民とか買い占めとか、人災がすごくあって。他にも、爆弾低気圧がくるたびにホームが人で溢れ、タクシーもすごく待つし、父が倒れてしまったときも近くの病院がいっぱいで入院できなくて、看病も毎日遠くに行かないといけなくて、なんて住みにくいんだと。それで、真剣に考えてみたら、別に首都圏に住まなくてもいいよね、と。
大堂・山部:ほお~。
福島:嫁は神奈川県で生まれ育ってるので、最初「え、なんで?」って感じでしたけど。
山部:東京のどこに住んでたんですか?
福島:田町です。品川の隣で港区の端。
大堂・山部:都会!
福島:都会でしたね。家の前からレインボーブリッジが見えるタワマンに住んでました(笑)
大堂・山部:ええ~!!(新情報にザワつく2人)
大堂:これは書かないと…(笑)
山部:太字で書かないと(笑)
福島:タワマンに住んでIT企業で働いてたっていうと、いかにもって感じですよね(笑)
大堂:ふはは(笑)
山部:元々都会的なものに憧れが?
福島:いえ、仕事が忙しかったので会社の近くに住みたくて。通勤電車に何時間も揺られて、家賃をすごく払うのがばかばかしくなって、探したらこれは買いだと。東京に住み始めたのは就職してからですね。最初は世田谷の経堂で同期の妻と同棲してて、結婚に合わせてマンションを買おうと。
大堂:僕も経堂に住んでましたよ!結婚して、糸島に移住する直前の1年間、嫁と住んでました。
福島:経堂だけに共同生活をね(笑)
~しばし、経堂ローカルトーク~
「40歳になったら九州に戻ろう」と決めて東京に
山部:大堂さんはどこに住んでたんですか?
大堂:転々としてましたね。約10年間で住んだのは、自由が丘、名古屋、白金台、経堂。自由が丘は社員寮があって、白金台は起業家が集まるシェアハウスに。
山部:大堂さんは、東京はどうだったんですか?
大堂:僕は九州生まれなんで、40歳になったら九州に戻ってきたいっていうのは元々決めてて、それまでは東京かなって。九大のときに商社を目指す仲間が5~6人いて、エントリーシートを添削しあったり、将来やりたいことを議論したりして、「40歳になったら戻っておもろいことをしよう」と青臭いことを言い合ってて。それがちょっと早まった感じです。熱風会って自分らのこと名乗ってました(笑)
山部:住みやすさはどうでした?
大堂:やっぱり満員電車とか、人の多さは苦手でしたね。でもまあ、住んでたら慣れますよね?
福島:まあ慣れたし、僕は東京の中でも割と便利なところに住んでたので、ほんとに便利でしたよ!
大堂・山部:便利は便利ですよね~!
福島:便利だし、新しいものや情報にふれるとかは常にできて、それはいいけど、実は不便なとこもあると気付いて。子供が生まれると不便さが増すんですよ。お店が狭いから子供連れだと気を遣うし、保育園の待機児童とか。保活めっちゃしましたよ。最初3~4か月遠くの保育園に入れてからポイントを獲得して、地元の保育園に入れるとか。いい面もあるけど、大変な面も多いですよね。こっちにきたら、よけい「ああ大変だったな~」って。
大堂・山部:うんうん。
福島:東京では高いお金を払えばおいしいものを食べられるんだけど、こっちではおいしいものがもっと安く手軽に手に入ったり。何のために働いてるのかわからなくなってきて。
「何のために働いてるんだろう?」見失った東京生活
山部:何のために働いてるんだろうって、私もありましたね。満員電車が嫌で、会社近くの池袋あたりに住んでたんですけど、仕事も忙しかったから家と会社の往復だけの毎日で。他のことする元気もないし、ただ生きるために働いてるみたいになってきて。
大堂:あれ不思議だよね。何が悪いんでしょうね?会社が悪いのかな?東京?
福島:(満面の笑みで)それがいいと思って生活してた、自分たちが悪いんじゃないですかね?
一同:ふはははは!!(笑)
山部:省みましたね、自分を!(笑)
大堂:そうだよね、それ選んだのは自分だもんね(笑)
福島:他のせいにするとしたら、社会がそういう風潮を作ってたかもしれないですね。昔から親も「いい大学入って、ちゃんとした会社入って…」とか、そういうのがいいという社会の風潮はあったし。就活をみんながあんなに一生懸命やったのもそうだと思うし。大きな会社がいいとか、金融がいいとか、大きな商社がいいとか(笑)
大堂:ははは(笑)
山部:あれって、東京以外で働いてたらまた違うんですかね?仕事ばっかりになって、何のために働いてるんだろうってなるのは。
大堂:僕が名古屋で働いてたときは、仕事は激務だったんですけど、土日は充実してましたよ。岐阜に遊びに行ったり、三重にゴルフ行ったり。
福島:それ、接待ゴルフじゃなくて?(笑)
大堂:あ、両方(笑) 接待もあるし、同僚とも。
山部:東京のときとかなり違ったんですか?
大堂:あ、でも、東京と比べると充実してましたけど、それでも糸島の充実度とは雲泥の差がありましたね。
「地域のために何かしたい」と思うのは、他に人がいないから
山部:東京が気に入って、「九州戻らなくていいかな」と思ったことはないですか?
大堂:(福島さんに)あります?
福島:いや、僕は九州出身じゃないから(笑)
大堂:20代の頃は、東京も楽しかったですね。刺激も多いし、美術館とか映画とか、文化的なものもあるし。感覚が変わり始めたのは、結婚してからかな。
福島:「九州に戻って起業しよう」って言ってた就活仲間はどうしてるの?
大堂:ほとんど東京に行って、6人中3人が戻ってきました。1人は新卒から九州の商社(大手商社の九州拠点会社)に就職して。今でも年2回くらい飲んでます。一緒に会社作ろうっていうのはまだですけど、みんな思い思いのことをやってます。残りの2人のうち一人は転職して大阪に。「いつかは」と言ってて。
福島:みんな東京で働きながら、九州への想いは持ち続けたんですね。
山部:郷土愛強いですね。
福島:ほんと九州とか福岡の人は強いですよね。何かの「自分の地元が好き」ランキング1位でしたよ。
大堂:2人は郷土愛ないの?
山部:私は大阪は好きなんですけど、糸島がいいかなって(笑) 大阪は都会なので、糸島に帰ってくるとホッとするし、自然に囲まれてる方がいいですね。
福島:僕も横浜は好きですけど、たとえばいま糸島で色んな地域活動していてすごいモチベーションあるんですけど、横浜に対してなんかしようって思いはそこまでないです(笑)
大堂:(爆笑)
山部:わかります!私も大阪で町おこししようとか思わないです(笑)
福島:人のつながりがあんまりないし、人が多すぎるから自分がやらなくても他にたくさんやる人いるから、いいかなって。
大堂:自分事化しにくいですよね。
福島:いつか絶対に帰りたいという思いも別にないし、ただお墓があるからどうしようかなって。
山部:大堂さんは、地元の熊本に戻りたいという思いはないんですか?
大堂:今のところないね。高校までいたけど、地域のつながりはそんなになくて、知ってる友達がいるぐらいだし。糸島がちょうどいいよね、福岡空港も近いし。
糸島のよくないところは、虫が多いところだけ
山部:糸島で不便に感じてることとか、よくなかったことってありますか?
福島:しいて言うなら、すごいちっちゃい人間に思われそうだけど…蚊が多い(笑)
山部:めっちゃちっちゃかった(笑)
大堂:タワマンにはいませんもんね(笑)
山部:タワマンにたどつりけないですもんね(笑)
福島:あとカメムシとか。
山部:カメムシめっちゃいますね!
福島:あと、思ったより黄砂の影響がある気がする。空気が綺麗ではあるけど、すっごい綺麗という訳ではない。公共料金もそこまで安くない。ガス・水道代は東京の方が安いし、ゴミ袋代がかかるし。タワマンは24時間365日いつでもゴミ捨てられたから(笑)
大堂・山部:ああ~。
福島:だけど、今も糸島の便利なところに住んでるから、すぐ近くにコンビニもスーパーもあるし、むしろ横浜の実家の方が近くにコンビニがなくて不便かも(笑)
山部:大堂さんは不便なことはありますか?
大堂:いや~…ないね。
山部:おお!
大堂:ただ嫁さんが虫嫌いだから、「こんな脚長いクモ初めて見た!」とか(笑) 僕は気にならないんだけど。
福島:蚊もすごいでっかいのいません?
山部:蚊にこだわりますね(笑)
福島:それこそ、嫁が蚊がすっごい嫌いだから、蚊より蚊に反応する嫁が大変(笑) ちょっとでも窓開けっ放しにしてるとめっちゃ怒られる(笑)
大堂:うちも一緒!マンションの7階なんですけど、7階ってそんな虫入ってこないじゃないですか。でも網戸にするのも駄目なんですよ。ちょっと空気入れるのもダメで。厳しすぎますよね?(笑)
山部:虫が入るわずかな可能性も許せないということですね。
福島:大堂家の夫婦関係、微笑ましいよね(笑)
山部:じゃあ移住したい人は、奥さんが虫許せるかも重要ですね。
福島:いや、慣れると思いますけどね~。けっこう普通に虫掴んでたりするし。僕は逆に虫が多いのはいいなと思ってて。子供が虫をすごい好きになったし。東京にいたときは怖いのかアリを遠巻きに眺めてたけど、今はダンゴムシがポケットに入ってたり。
山部:子供らしくなりましたね(笑)
福島:東京だとカブトムシはデパートで買うものだけど、こっちだと知り合いからもらえたり。
山部:私マンションの廊下にクワガタ転がってましたよ(笑)
福島:言ってたね(笑) あと蛍もいるし。
大堂:うちの寮も、歩いて行けるとこに蛍いますよ。虫の話だと、うちの寮生も糸島に来て虫に慣れるんですよ。ある意味、許容度が広がって社会人として放たれるから、ちょっとやそっとのことで動じなくなる、器が広がるという副次効果もある。
福島:なるほど~。
山部:私は虫嫌いなので、泣きながら掃除してますよ(笑)
福島:慣れるかは人によるのかもですね(笑)
山部:あと、映画館が遠いのが玉に瑕かもしれない。私は糸島の中でも田舎に住んでて、天神とか博多に見に行くのに1時間以上かかるので。逆にそれくらいで、他はだいたい糸島でいいんですけど。
福島:それ以外ほんとにないですよね。虫くらい。
大堂:虫以外出てこないですね。
<後編につづく>
https://itofessional.com/2021/05/19/talk-2/