はたらく

「一千万円以上借りて追い込む」「元手20万でサバイブ」真逆な2人の起業家座談会

こんにちは、「イトフェッショナル」ライターの山部です。

シェアオフィス「糸島よかとこラボ」でいつも仲良くさせてもらっている起業家の浜さんと廣瀬さん。いつもフランクに接してもらっていますが、実は起業家としてすごい方々なんです。今まであまりビジネスの話をしたことがなかったので、今回、起業の経緯や会社員時代の話など詳しく伺ってみることにしました!

廣瀬さんは創業から1年強で経済産業省の制度「スマートSMEサポーター」「情報処理支援機関」として認定を受け、昨年度1年分の売上を今期上半期で超えるなどノリに乗っているCX Value Lab株式会社のCEO、浜さんは数十兆円の医療費削減を目指す誤嚥性肺炎ゼロプロジェクトで医療業界のみならずメディアにも注目されている株式会社クロスケアデンタルのCOOをされています。

お2人の人生経験の濃さにより、起業に興味がない方も楽しめる記事になっています!
ぜひご覧ください^^


浜 俊壱

福岡市西区出身、九州大学21世紀プログラム課程卒。西部ガス株式会社に9年勤務し、中小企業診断士の資格取得を経て独立。現在は社会起業家として株式会社クロスケアデンタル Co-Founder/COO、株式会社クロスケアコンサルティング代表取締役、株式会社人財アジア福岡駐在、シェアオフィス「糸島よかとこラボ」理事長など、幅広く事業展開している。

廣瀬 隆彦​

名古屋市出身。エイベックス株式会社、WDI、メルカリに勤務。グロービス経営大学院を卒業後、2020年に中小企業の事業変革を伴走して支援するCX Value Lab株式会社を設立。2012年に家族で糸島に移住し、現在「糸島よかとこラボ」に入居中。

一千万円以上借りると、前に進むしかなくなる

――まず、今はどんなお仕事をされてるんですか?

廣瀬:中小企業とベンチャー企業の事業化に関わる伴奏支援をしています。僕の専門はあえていうとマーケティング経験で、そことグロービス経営大学院で体系的に学んだ、生きた経営をお伝えする感じです。

――コンサルっていうことになるんですかね?

廣瀬:そうですね。どうしても「DXコンサルティング」っていうと怪しい感じがするので、自分からは名乗ってなくて(笑)

:怪しいですね(笑) めちゃめちゃ気持ちわかります。

――浜さんはどうですか?

:僕も廣瀬さんと同じで自分であまり名乗ってなかったけど、初めはコンサルを生業に起業した。今の名乗りは社会起業家といって、中小企業診断士のスキルを使って、世の中がよりよくなるような新規事業を立ち上げて経営する仕事をしてます。

――コンサルは今もやってるんですか?

:今はコンサルはほぼしてない。駆け出しの頃はコンサルの仕事をしてたけど、「自分で経営したことないのに、何で正しいかわかるねん」って思って、だったら自分で経営やろうと。

――二人とも初めはコンサルだったんですね。

:アプローチが、廣瀬さんはDX。僕はそんなオシャレな術がないから、クライアントが喜ぶことを泥臭くやってきたって感じ。2人の違いは、廣瀬さんは用意周到で、僕は行き当たりばったり(笑)

廣瀬:僕はこう見えて極度の心配症で(笑) 起業して初めて融資を受けたんですけど、車も現金で買うし、それまでは借金したことなかったです。今も賃貸に住んでますし。

:それはクライアントからしたら安心感ありますよね(笑)

――そういう人が起業するって、けっこう勇気いりますよね?

廣瀬:僕、わかったことがあって。一千万円以上とか借りちゃうと、前に進むしかなくなるんですよ。

一同:(笑)

廣瀬:むしろ借りてよかったと思うのは、覚悟ができるというか。起業して借りるかどうかも迷ってたんですよ。「別に人雇わなきゃ大丈夫じゃん」って。でも色んな人に「借りた方がいいよ」って経験談を聞いて、借りてみると「ほんとだ、前に進むしかない!」って。

――会社を大きくするためにお金を借りてるってことなんですか?

廣瀬:いや、やりたいことがあってその手段として会社を作ってるので、人を増やさなくてもできるなら、それでも全然いいですね。ただ中小企業もいっぱいあるんで、仲間を作ってそれを面で支援していくためには、人が必要かもしれない。会社を大きくするのは目的じゃなくて、大きくする必要性があるなら大きくしていきたいと。

貯金ゼロ、借金あり、元手20万で起業

――浜さんは融資とか受けてたんですか?

:起業したとき融資は受けてなくて。手持ち資金全然ないから、そういう意味で追い込むっていう。貯金ゼロで借金しかない人が、元手20万でサバイブする。それで始めたけど、開始半年でそんなに稼げるわけないから、借金して。

廣瀬:今の話聞いて、すごいなって思います。会社を作って役員になると、会社がマイナスだろうがプラスだろうが、定額の給料が入ってくるわけですよ。僕は先にお金を借りたので、1年2年ぐらいは家族を養えるだろうと思ったけど、そこ見てないっていうのはすごいと思う。

:そこはマネしちゃだめよ(笑) 共通してるのは、自分を追い込んだことだね。ちゃんと追い込んで、それに向かって努力したっていう。

――廣瀬さんは借りることで追い込んで、浜さんは借りないことで追い込んだんですね(笑)

:廣瀬さんはコンサルが合ってるんだろうなって思う。僕は「結局自分がやった方がいいんじゃないか」って、もどかしさを抱えちゃう。「自分だったらこうするのにな」って伝えるんだけど、そうならないときに「うーん」ってなることが何回かあって。それはコンサルの力不足でしょってことだと思うんだけど、だったら逆に自分で試していった方が結果がすぐに出るから、そっちに楽しみを感じちゃったっていう。

――自分でやった方が楽しいんですね。

楽しいっていうのと、自分の経営が大きくなればなるほど助けられる人が増えていくから、それはそれでありかなって思って。目標は一緒だけど、アプローチが変わった。事業をいくつもやって、全部ちゃんと形にしていくと、関係者の人たちも幸せだし。

廣瀬:いいですね~。

――じゃあ、次は会社員時代の話を聞きたいんですけど、浜さんは西部ガスでしたよね?

:そうそう。

廣瀬:僕はエイベックス、WDIというハードロックカフェとかレストランをやってる会社、メルカリです。

――会社員は合ってましたか?ちゃんと会社員にハマれるタイプなのか、ハマれないから独立したタイプなのか(笑)

一同:わははは(笑)

:それは結論出てますけどね(笑)

廣瀬:僕は起業して半年後に、10数年連れ添った嫁から「会社員、合ってなかったね」って言われました(笑) イキイキしてたんでしょうね。仕事楽しいって話をよくしてたから。

:僕は最初からずっと合わないなって思ってた。たとえば、会社の等級制度とかも果てしないんだよね、道が。ひたすら上らないといけなくて。その評価の決まり方って、たぶん上司の裁量や周りの状況とか、バランスとか、運だよね。それを変えられるのはかなり先の話で、そういうことが合わないから、最初から辞めるって言ってた。

夜中の1時に帰宅して5時に起きる生活

廣瀬:僕はエイベックスの思い出が一番強いです。エイベックスに入れたのはめちゃくちゃラッキーだったけど、入ったらすごく大変だった。人格否定もされるし、寝る時間もなくて。その中で闘争心をかきたてられて、僕はその階段を30歳ぐらいまでは順調に上れて。でも周りで人がバタバタ倒れて、夜中の1時にタクシーで帰って5時に起きて出社するみたいな生活で。この生活してたら、子ども生まれても育てられないじゃんって思って。「なんかこれ違うんじゃないかな」「これって自分のために生きてるのかな」って。で、あるとき鹿児島出身の嫁が九州に帰りたいって言い出して、じゃあ行っちゃおうかと。

――かっこいい!(笑)

廣瀬:そしたらエイベックスの福岡支社に異動させてもらえることになって。その後転職したメルカリもすごくよかったんですけど、結局どこの会社でも、上司に振り回されるのは変わらない。こういう会社をなくしたいなっていうのも、今の仕事に繋がってるんです。僕はコンサルで入ってる会社に、50代の部長職であと5年で逃げ切れるみたいな人が一人でもいたら、「この人がボトルネックだな」と思って話をしてます(笑)

――経験談が活かされてる(笑)

:会社でなぜ僕が冷めちゃったかというと、新入社員のときに足を折っちゃって、仮採用が延びて、最初から出世レースに脱落してるんですよ。だからレースを横から見てるしかなくて。「挽回するにはどうしたらいいんですか」って聞いたら、一生懸命やるしかないって言われて。でも一生懸命やっても評価を逆転できるようなものでもなくて。ひたすら地雷ふまず、失敗せず頑張り続けた人しか報われないなら、運じゃんって。

廣瀬:あと、会社にいると、マーケティングの廣瀬なんですよ。マーケティングで結果を出さないと評価されない。でも自分ってマーケティングだけの人間じゃないよな、自分のポテンシャルってもっと広いんじゃないかなって思って。世の中にも、実はこっちの価値を出せばもっと別の仕事もできるのに、って方もいっぱいいると思うんですよね。その別の能力は、会社にいる限り使えない。

――能力を活かしきれないってことですね。

:僕は会社では10%しか実力出しませんでしたって言ってる。僕の会社員時代しか知らない人と、今を知ってる人って全然印象違うと思う。でもそれも苦しくて。自分の時間を100%で生きたいほうの人間だから。

――起業したいっていうのはいつから考えてたんですか?

廣瀬:僕は起業の半年前からです。福岡に来て、メルカリに転職して、同時期にグロービスに入って。メルカリはほんとに素晴らしい会社で、これ以上の会社はない、会社勤めするならここにずっといようって思ってて。そのときグロービスの授業を受けて、「やるしかない」って。それまでは起業とか考えたことなかったです。家族がいるし、仕事って我慢代だと思ってたし。さっきの、自分のポテンシャルをもっと社会に出せるんじゃないかってことも半年前に全部つながってきちゃって、それで突然嫁に起業するって。

――グロービスには何で入ったんですか?

廣瀬:独立してコンサルしようとか、明確に思って入ったわけでは全くないです。経営を体系的に学びたいなと、80歳まで働く上で役立つかなと思っただけで。用意周到ではなく、割と行き当たりばったりで。

:僕の方が行き当たりばったりだ。最初就職しないつもりだったけど、自分で会社始めるにはいろんなインフラが整ってないし、社会のこと知らないし、「来い」って言われたから行くか、みたいな、すごいナメた感じで入社して。「もういいかな」って思ったのが入社1年後。研修で「今のモチベーションを波で表しなさい」って言われて、そのモチベーションが全部下だった。その情報がなぜか会社に全部もれてて、当時の先輩から辞めるなってこんこんと言われて、まあそうかなって。それで結婚して子供生まれたこともあって、じゃあ辞めれないなって。完全に行き当たりばったり。

――最初から起業するつもりだったけど、家族ができたり色んな事情で。

:起業するにあたって家族を養わなきゃいけないから、資格があったほうがいいなって思って、経営したいっていうのもあったしで、中小企業診断士の資格をとった。一発でではないけど受かったから、そっちの道が合ってるんだろうなって。

――最初から独立したいっていうのはあって、何で独立するかは後から考えたっていうことですか?

:そうだね。何したらいいんだろうって。

起業計画は立てなくていい

――起業したいけど何したらいいんだろうって悩み、よく聞きますよね。

:僕は最近意見が変わって。今までは「ひとまず起業しちゃったらいいじゃん。やらなきゃわからないし、うまくいくかいかないかはあなたの責任だよ」って感じで言ってたんだけど、最近、うまくいかなかったらかわいそうかなって思ってきて。廣瀬さんみたいにちゃんと用意してやるのがほんとは賢いと思うし。

廣瀬:僕も今グロービスでメンターやってるんですが、コロナの影響で、超安定企業だと思ってた会社でみんなつまずくわけですよ。この前も、「事業やりたいんですが、家族もいるし、どうやったらいいですか?」って相談を受けて。副業禁止らしいので、副業にならないギリギリの範囲で実証実験をやれるだけやっていくってことと、理解してくれる仲間をたくさん作るっていうのを、給料もらいながら初期段階としてやっていくのがいいんじゃないのって答えて。起業のタイミングを遅らせることでもちろん競合も出るかもしれないけど、出たときは出たときだし、今完全にリスク背負ってやれとは言えなくて(笑)

――けっこう慎重なアドバイス!

:人が独立するってなったときに僕が言えるのは、人の3倍、5倍、寝る時間や家族との時間全部削って、1~2年頑張ったら、結果は出るよって思う。それだけの覚悟があれば大丈夫だよって。

廣瀬:そうですね。そこは効率よくとか考えすぎずに、非効率でもいいと思うんですよね。もちろんできるだけ正しい形の努力ができるのが一番いいんですけど、それだけではないし、やってみてダメだったなってこともいっぱいありますしね。

:その振り返りができるかどうかが大事だと思う。これ診断士としては全然セオリーじゃないこと言ってて、診断士は計画立てましょうと言ってる(笑) でも僕は計画はいらないと思ってて。

廣瀬:僕も超練り上げて綿密な計画立てるより、とりあえず動いてみてやりながら改善していって、計画を作り直していく方がいいと思います。

起業に失敗しても拾ってくれる会社はある

:ただ、計画はいらないんだけど、ここ超えたら死んじゃうよって、デッドラインだけは決めとこうと。そこだけわかっといたら、あとはどんだけアクションするか、その方向が合ってたか間違ってたかしかない。でも、何も守るものがなければ、それさえしなくていいかなって思ってる。

――家族とかいなければ。

:自分の身一つなら、そんなこと考えずにやりたいならやればいいし、やる期間だけ決めてたらいいんじゃないって。人の3倍働いて3年チャレンジして結果出ないなら、人が10年やっても結果出ないことだから、それは向いてないってことだし。ただ3年チャレンジしたことは無駄にならないから、転職のときそれを正直に伝えたら、拾ってくれる会社あるんじゃないって。

――めっちゃいいこと言いますね…。最後に、お2人がこれからやりたいことを教えてください。

廣瀬:糸島の超マイクロDtoC計画をしたいと思ってて。具体的にいうと、今年福吉のカキ小屋が燻製をやってて、それがおいしいらしくて。でも話聞いてたら、朝に漁行って夜中に燻製作って、かなり大変そうなんですよね。そういう食材を全国に定期便とかで世界観を伝えながら売っていけば、もっと多くの人に届くんじゃないかと思って。今糸島に住んで9年くらいになるんですが、糸島のクライアントさんがいないので、もっと糸島のお役に立ちたいし、貢献したいですね。

:これからも自由に色んなことをやりたいね。色んな人と仕事をしたい。単純にありがとうって言ってもらいたいっていうのが大きくて。ただのお金儲けはやりたくなくて、誰もやったことがないことをやりたいし、それで結果喜んでくれる人が多いことをやりたい。糸島から世界に通じる企業を作りたい。糸ラボをはじめとした、色んな人が集まる場所を作りたいし、仕事で遊びたいかな。

――今日はありがとうございました!!

編集後記

起業家座談会、いかがでしたでしょうか。
浜さんの発言が大体激しいので、「これはマネしたらいかんやつー!!」と震えながら聞いていました(笑)

お2人とも答えがすでに頭の中にあり、質問したら内容の詰まった言葉がするする出てきて、仕事ができる人ってこうなんだなあと思いました(小学生並みの感想)。

「綿密な計画はいらない」「チャレンジは無駄にならない」など、起業に限らず何かに挑戦したいときにとても励みになるお話だったと思います!

次回もお楽しみに^^

文:山部沙織

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